殺人株式会社の密告者PART2
殺人株式会社の密告者PART2
ここまで、手段と機会について見てきた。
次に動機について見てみよう。
レルズの死亡日は、ルバート・アナスタシアが、バカルターのパートナーだったモリス・ダイヤモンドを殺した、あるいは殺すように命令したという殺人事件で、彼が証言する前夜だった。
その日のうちにレルズは、アナスタシアを死刑台に送るような証拠を提出する予定だった。
そしてアナスタシアの情報提供者に対する態度は、控えめに言っても妥協のないものだった。
ある時、テレビで「銀行強盗の帝王」と呼ばれたウィリー・サットンへの密告者の名前を報じるニュースを見た。
アナスタシアは、サットンがアナスタシアやマフィアとは何の関係もないにもかかわらず、情報提供者を殺すように命じたと、マフィアのバラキは語っている。
その情報提供者、アーノルド・シュスターは、わずか1カ月ほど後に死体で発見された。
その後、アナスタシアの事件は証拠不十分で不起訴になった。
バグジーとレルズ
レルズにはもう一人、シンジケート内の大敵がいた。
バグジー・シーゲルである。
1940年にカリフォルニアで起きたハリー・ビッグ・グリーニー・グリーンバーグの殺人事件で、シーゲルは重要な役割を果たした。
レルズは殺人事件の裏付けられる立場にあり、証言すればシーゲルはサンクエンティンのガス室行きになることが決定的になるのだって。
アナスタシアのように、シーゲルよレルズの死を喜んでいただろう。
彼は殺人容疑から逃れることができたのだから。
そして、まさにその通りになった。
シーゲルは釈放され、彼に対する訴訟は却下された。
また、レルズが寝返ったことで、他のギャングたちが証言を決意した、という事実もあった。
マーダーインクの仲間だったショーレム・バーンスタインはレルズと話した後、自分も話す決心をし、アリー “ティック・トック “タネンバウム、シーモア “ブルージョー “マグーン、マイヤー・シコフなど、多くのギャングがそれに従った。
組織のボスを守るため、腐敗の拡大を防ぐために見せしめが必要であり、見せしめには最も著名な人物が一番である。
ヘンリー・ヒル、ジミー・フラチアーノなどが活躍した今、起訴されたマフィアは、より軽い刑のために喜んで情報を交換することが多い。
しかし、当時はマフィアがこのような取引をするのは異例中の異例で、非常に斬新なことであったし、それを阻止するために何でもする傾向があった。
レルズは、マーダー・インクのボス、ルイス・バカルターとも個人的な付き合いがあった。
例えば、レプケが麻薬とゆすりの容疑から逃れるために逃亡したとき、レルズは主要な仲介役と個人的なボディーガードを務めた。
また、殺人の契約やマーダー・インクの日々の業務も扱っていた。
彼はマーダーインクの多くの犠牲者と、その死の動機を知っていた。
またニューヨーク州法の下で彼自身と仲間の情報提供者の証拠を裏づけるために必要な証人を見つけることができた。
特にジョセフ・ローゼンの殺人については、犯人のエマニュエル・メンディ・ワイス、ルイス・カポネ、ハリー・ピッツバーグ・フィル・ストラウスなどと、その動機についてよく知っていたのである。
要するに、エイブ・ルズは死体が埋まっている場所を知っていたのだ。
文字通りの意味で。
レルズの死に関するある記述によると、彼死んだ夜、警備していた刑事たちは目を覚まして警戒しており、少なくとも一人は彼の遺体が発見される1時間も前に彼と話をしていたとはっきり述べている。
エリート部隊であり、アメリカで最も重要なカナリアを守っているはずの刑事たちが、なぜ、縄梯子を組み立ててホテルの壁をよじ登ろうとするほど長い間、彼を放っておいたのだろうか?
経験豊富な刑事は、不審なものを見つけるのが仕事であり、非常に鋭い観察眼を持っているはずなのに、なぜ彼らは異変に気づかなかったのだろう?
そこで、もう一つ考えるべきことがある。
レルズは証言の見返りとして免責を得るという取引をすでに行っていた。
もし取引を破って証言しなければ免責を失う可能性があった。
一流の殺し屋としての彼の評判と、正確には18件の殺人を認めていることから、死刑は免れないはずだ。
それに殺人株式会社の元同僚たちも、いずれにせよ彼を捕まえることを誓っていたのだから、逃げ出したら元も子もない。
もしかしたらレルズは、かつての仲間よりも護衛の方が怖かったのかもしれない。
もしそうなら、ニューヨークの精鋭たちが日夜守っているはずの免訴された男が、いったい何を恐れる必要があるのだろうか。
何がそんなに怖いのか?
レルズは、ストリートで野放しになることよりも、保護されることを恐れていた可能性が高い。
1937年、レプケの有力な仲間であったマックス・ルービンは、ニューヨークの賭博犯罪を調査する大陪審の前に出て証言してた。
彼は、奇跡的に一命を取り留めたものの、証言後間もなく頭を撃たれてしまった。
後にルービンはこう語っている。
「誰も私の居場所を知らないはずの大陪審の部屋に入り、頭を撃たれてしまったんです」。
同じような高位のメンバーとして、レルズは間違いなくルービンにされたことをよく知っていただろうし、同じ運命を避けることを切望していたかもしれない。
しかし、この考えに賛成する証拠も反対する証拠もなく、本人しか答えられない。
葬られた真実
最後に、もう一つ重要なことを書いておこう。
少なくともある証言によれば、勤務中の刑事はレルズの失踪に最初に気がついたわけではなかった。
彼らは何も見ていないし、さらに興味深いことに、レルズがホテルから落下して死ぬまで何も聞いていない。
死の淵にいる意識のはっきりした人間が、口をつぐんで黙って倒れていたとでもいうのだろうか。
当時のニューヨーク市警では、腐敗が長年の大きな問題となっていた。
警察官は膨大な過労と人員不足に加え、警日常的に求められるリスクに比して、わずかな報酬しか得られていなかった。
また、NY市警の警察官の中には、幹部も含めて、様々な汚職の容疑で逮捕された者も少なくなかった。
中には、NYPD賭博班の班長をしながらカジノを運営する者もいたし、殺人を引き受けるものまでいた。
証人保護部隊全体が腐敗し、金のために殺人を犯すことをいとわないだけでなく、指揮官(非常に上級で尊敬されている警官)が自ら殺人の請負を監督していたことが証明されれば、不安定だったニューヨーク市警に対する市民の信頼は、根底から揺らぐことになっただろう。
おそらく最も重要なことは、証人保護の概念全体と、その結果として集められた情報提供者の非常に貴重な証言が、重大な脅威にさらされることになるであろうということである。
特に米国では、法執行機関が壊滅的な打撃を受け、そこから完全に立ち直ることはできなかったかもしれない。
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