世にも奇妙なマフィア2
その替え玉が “善人 “に雇われることもあれば、”悪人 “に雇われることもあった。
替え玉たちは、説得力のある振る舞いを学ぶためにホームビデオを何ヶ月もかけて研究し、変装を完璧にするために専門の整形外科医やメイクアップアーティストを使ったとスタンは説明した。
そうした替え玉たちに、ポーリーンは時々、遭遇していたという。
たとえば、兄が結婚した日、彼女は父親と叔母に久しぶりに会った。どちらも替え玉だった。
疑心暗鬼に悩まされながらも、ポーリンはこの信じられないような話をしてくれたのが母親とスタンであり、彼女が知っている中で最も信頼できる人たちであることを認めざるを得なかった。
「クレイジーな話だったから、信じるのに苦労したわ。でも、私が彼らを信じられなければ、誰を信じられるでしょう?」
話を聞かされた後、ポーリーンは秘密厳守を誓わされた。
そのことから後ろめたさがうまれ、ボーイフレンドと疎遠になってしまったとか。
「このままでは生きていけないと思ったの」とポーリーンは回想する。
彼女は母親と一緒に政府の隠れ家に入ろうと決めた。
彼女は仕事を辞め、家を売り、ボーイフレンドと別れた。
それからノバスコシア州のハリファックスに引っ越し、そこで仕事と新しい家を見つけながら、隠れ家に移住できる許可を待った。
その間も家族に対する脅迫があり、もしまた姿を消したら、残された者に地獄の雨が降り注ぐと聞かされたてしまう。
結局、2人は隠れ家に移住するのを諦めてしまった。
秘密を打ち明けられてから5年後の1993年、ポーリーンの迷いは頂点に達した。
ポーリンは外出先の母親に電話をし、慌てた様子で伝えた。
「誰かが私の家に入ってきたみたい!助けて」
すると母親は「組織に確認する」といって電話を切った。
そして数分後にかけ直してくると、慌てた様子でこうまくしたてた。
「警察は信用できない、行かないで。
今さっき私の仲間が家に侵入した二人組の男を捕まえたから、もう心配ないわ。
母親の言葉にポーリーンは泣き崩れた。
なぜなら、家に男が侵入したという話は、ポーリーンの作り話だったからだ。
彼女は母親の言う事が本当なのか確かめたくなり、罠を仕掛けたのだった。
「あの時、人間関係の断絶も、狂ったように走っていたことも、奇妙なことも、全部嘘だとわかったわ」
ポーリンは精神的ショックと怒りで、1週間は母親と話せなかった。
一方、母親は、ポーリンが組織に狙われるのではないかと心配していた。
数か月後、ポーリーンは自身の人生をめちゃくちゃにしたものの正体を知るべく精神科医に会いに行った。
精神科医は話の全てを聞き、こんな見解を示す。
「統合失調症ではありませんね。あなたの母親は精神病のようには思えません。
恐らく、問題の根源はスタンにあるんでしょう。
スタンは支配欲の強い人間で、嘘であなたの母親をマインドコントロールしているのだと思います」
2010年、母親ルースはガンで亡くなった。
ポーリーンとは断絶状態だったが、最期の9カ月だけは昔のように一緒に暮らしたのだという。
実はその前にスタンも病死していたが、母親は死ぬときまで組織の話を信じていた。
「亡くなる少し前、彼女は私に気をつけるように警告しました。
私は彼女に、気をつける必要はないわと言ったの」
エピローグ
ある日、ポーリーンは医学雑誌で妄想性障害という病気についての記事を目にした。
「この論文を読みながら、これはスタンを完全に言い表していると感じたの」
ポーリーンは論文の著者であるハーバード大学の精神科医に連絡を取った。彼は彼女の話を聞いてとても興奮した。医者いわく「スタンは妄想性障害者の特徴をすべて備えていた」。
スタンが家族にしたことの理由を見つけることで、ポーリーンは自分の過去と折り合いをつけることができたかもしれない。
だが、彼が家族の人生に与えたダメージを修復することはできない。