セバと呼ばれた男
セバと呼ばれた男
古今東西のマフィアには、それぞれあだ名がついている。
アル・カポネのスカーフェイス。
アルバート・アナスタシアのマッドハッターなど、凶悪なイメージを想起させるものも多い。
しかし、中でも凶悪なあだ名を持つ男が、セミオン・モギレヴィチだ。
彼のあだ名は、セバ。
これはヘブライ語で、全てを支配する者という意味である。
また、FBIは彼に “世界で最も危険なマフィア “とのあだ名をつけている。
FBIが出した彼の指名手配書には、電信による詐欺、RICOの共謀、郵便詐欺、マネーロンダリングの共謀、マネーロンダリング、幇助、証券詐欺、SECへの虚偽登録、SECへの虚偽提出、書籍と記録の改ざん、という犯罪行為の羅列が並んでいる。
殺人やテロ行為を想像したマフィアファンはガッカリするだろう。
FBIが彼を追うのは、彼と彼のパートナーがカナダの会社を巻き込んだ数百万ドル規模の詐欺を働いたからだ。
ペンシルバニア州のYBMという会社とアルバータ州のプラテックス・テクノロジー社を中心に、アメリカ国内で多くのいかがわしい取引が行われていたのである。
2年にわたり2大陸で行われた大規模かつ複雑な詐欺事件で、3億5千万ドル以上が行方不明になった。
セバの経歴
1946年にウクライナのキエフで生まれたセミオン・モギレヴィチは、生涯を通じて複数の偽名を使い分けることになる。
ハンガリーで一時期暮らし、ウクライナの大学で経済学を学んだ。
最終的に彼は経済学の学位を取得。
しかし、自分の才能はアンダーグラウンド分野に向いていると判断した。
20代半ば、ミオン・モギレヴィチは、ロシアを拠点にアジアやヨーロッパからアメリカに麻薬を密輸するマフィア、リュベルツカヤファミリーの一員となった。
いわゆる、ロシアンマフィアである。
1970年代のこの時期、ロシアの警察当局は彼の存在に初めて気づき、ささいな窃盗や偽造で捜査している。
ソ連崩壊後、後継となる組織的犯罪組織を立ち上げたソルンツェフスカヤ・ブラトヴァの兄弟分となったミオン・モギレヴィチは、そちらのファミリーに移籍した。
彼らはロシアン・マフィア、時にはその残虐性からレッド・マフィアと呼ばれるようになった。
1993年、ロシア内務省はロシアで5,000以上の犯罪グループが活動していると発表。
しかし、存在を把握しているのは約300だけであり、マフィアにとっては自由な時代だった。
兄弟分であるソルンツェフスカヤの率いるレッドマフィアは、世界最大級のギャングに成長。
恐喝、麻薬密売、自動車盗難、美術品盗難、マネーロンダリング、契約殺人、武器取引、人身売買、核物質取引、売春、石油取引などの犯罪活動を行う組織となった。
この組織は、あらゆるところに触手を伸ばし、重要な人物を吸い寄せているタコのような組織だったのだ。
この組織は、大都市の通りに群がる群衆のように顔の見えない男によって運営されていた。
その中でモギレビッチは、アメリカやイスラエルに移住してきたユダヤ人たちから資産を買い占め、約束どおり売却後の分け前を送金することをせず、同胞のユダヤ人から金を巻き上げた。
彼はまた、1990年代初頭にニューヨークのロシアンマフィアのゴッドファーザーとなったヴャチェスラフ・イヴァンコフと共に輸出入会社を設立した。
1990年初頭、モギレビッチは妻のカタリン・パップとともにイスラエルに渡り、二人とも市民権を得た後、彼女の生まれ故郷であるブダペストに戻った。
ここから彼の帝国建設が始まり、同じくロシア系マフィアのモンヤ・エルソンと組んで東ヨーロッパでナイトクラブを次々とオープン。
モンヤは麻薬取引でイスラエルの刑務所に収監された後、アメリカに渡り、ロシア系マフィアのブライトンビーチ部門の一員となった。
1996年、FBIは、ミオン・モギレヴィチの活動範囲はチェコ共和国のプラハ、オーストリアのウィーン、アメリカ、ウクライナ、イギリス、フランス、スロバキア、イスラエルなど中央ヨーロッパに及んでいると発表した。
一時期は、27カ国に銀行口座を持つ100社以上の会社を傘下に収め、現金の流れは洪水のような状態になっていた。
21世紀に入ると、レッドマフィアは世界で最も大きく、最も強力な犯罪カルテルとなった。
組織犯罪の頂点である。
そして、ウクライナ出身の小男、ミオン・モギレヴィチがそれを動かすようになっていた。
彼の友人達は 彼を「頭のいいドン」と呼んだ。
そして、実際に彼が一緒に働いていた他のほとんどのギャング達と比べても彼はそうだった。
FBIのピーター・コウェンホフン捜査官はインタビューで、こう話している。
「ボスの中のボスであるセミヨン・モギレビッチは戦略的脅威であり、電話や命令で世界経済に影響を与えることができる」。
米国政府は、彼を世界の金融安全保障のリスクとしてだけでなく、ソ連が崩壊する過程で得た膨大な兵器や核分裂物質まで入手できることから、心配していたのである。
彼と彼のマフィアが特に懸念されるのは、彼らが単なる犯罪者狩りではなく、オリガルヒや大企業、政府そのものとつながりを持つ組織であるということだ。
ロシアン・マフィアがどこで終わり、国家がどこで始まるかは、危険なほど有毒なレベルの難問である。
この共生関係は、ほぼ間違いなく今日まで継続されている。
次回に続きます