三分で学ぶラッキー・ルチアーノpart2
三分で学ぶラッキー・ルチアーノpart2
目次
ルカーニアの失敗
金と力を手に入れたルカーニアは毎晩、クラブへと繰り出し女を漁るようになった。
女のほとんどはアドニスが世話をしてくれたショーガールで、皆べっぴんだった。
気をよくしたルカーニアは社交界にも進出することに。
毎晩いいスーツを着てはナイトクラブ コパカバーナへ繰り出し、堅気の大物と交流を深めたり、酒をたらふく飲んだりした。
ルカーニアはニューヨークの高級クラブへ独占的に上物の酒を販売しており、堅気の人物からもヒーローと見なされていたのだ。
そんなルカーニアには“彼はインポだ”という噂が付きまとうようになった。
ルカーニアは淋病の後遺症である足の付け根の痛みとトラウマから女を抱く気になれなかったのだ。
また淋病になるのではと心配になり駄目だった。いい娘を大勢取り逃がしたよ
こうした生活をしつつもルカーニアは酒の密売を精力的に行い、懐にはいつも銃を忍ばせていた。
「私が人を殺したことがあるかは、見る角度によって異なる。
実際に誰かを手にかけたことはない。
しかし暗殺を命じたことも含まれるのなら、殺したと言わざるをえない
1923年、ヴィト・ジェノベーゼが麻薬取引の仕事を持ちかけてきた。
最初は前回の件から取引を嫌がるルカーニアだったが、あまりに儲かる取引だったのでついつい了承してしまった。
毎晩の遊び歩きにより、ルカーニアはいささか注意力を欠いていたともいえる。
1923年6月5日、ルカーニアは麻薬所持で逮捕された。
コステロは賄賂を送りルカーニアを助けようとしたが、麻薬取締局に賄賂は通じなかった。
追い詰められたルカーニアはなんとか服役を回避しようと取引を申し出る。
「ヘロインの隠し場所を教えよう」と。
ルカーニアは取引で服役を免れたが大切なモノを失うことになった。
このヘロインはルカーニアの持ち物で他に逮捕者は出なかったが、警察は“奴は密告者だぞ”という噂を流したのだ。
そしてもう一つは“麻薬の売人”というレッテルを張られたことだった。
どう努力しても麻薬を扱うという評判を無くすことはできなかった。
私は二度と麻薬に近寄るまいと誓ったが、仲間はいつも私に麻薬の話を持ってきた。
この時、私は自分が無敵ではないことを知った
チャンピオン
1923年9月、世間はボクシングチャンピオン ジャック・デンプシーの防衛戦の話で持ちきりだった。
ランスキーはこの試合こそがルカーニアの名声を高めるチャンスだと判断し、ルカーニアをレストランに呼び出し計画を話した。
試合当日までにルカーニアは金とコネを惜しみ無く使い、200席を買い占めた。
それからルカーニアとランスキーは“100組200名を招待する”との宣伝を行った。
麻薬事件により敬遠されていたルカーニアの元には600を超える希望者が押し掛けた。
あらゆる大物や権力者を押さえて席を買い占めたという事実はルカーニアに箔をつけ、さらに気前の良い人物だと印象付けることになる。
当日、ルカーニアはグレーのスーツにハットで現れた。
この控えめながらシャレた服装はロススタインの教えの賜物だった。
ルカーニアが最前列に座ると、女優や政治家、警視総監などあらゆる人物が挨拶にやってきた。
私は初めて、本当の権力を味わったんだ
満更でもない気分で過ごしたルカーニアの元へ招かれざる客が現れた。
サルヴァトーレ・マランツァーノである。
自席から遥々最前列へやってきたマランツァーノはルカーニアにある取引を持ちかけた。。
ボクシング観戦から二日後。
ルカーニアはフランク・コステロを伴いマランツァーノの事務所を訪れた。
マランツァーノは二人を温かく出迎えたが、これはルカーニアにとって意外なことであった。
コステロはマランツァーノが毛嫌いする“シチリア人以外”の人間だったからである。
マランツァーノは親しげに微笑みかけ、『お前は息子同然だよ。コステロの評判もきいている。
これ以上酒を巡って争うのは全く不毛なことだ。
そこで二人には我がマランツァーノファミリーの一員になって欲しい。
勿論、悪いようにはしないさ』と申し出た。
ただし条件があった。
カラブリア出身のコステロは許容できるが、ユダヤ人とは縁を切ってもらいたいというのだ。
じゃあ俺にも条件がある。と言ってやった。
1つ、密造酒ビジネスの縄張りを全て明け渡すこと。
2つ、マランツァーノファミリーのNo.2の座を用意すること。
3つ、マランツァーノはルカーニアのビジネスに一切、干渉しないこと。と
マランツァーノはこの条件を聞いても笑みを絶やさなかった。
少し間をおいてマランツァーノは『じっくり考えるといい。私の申し出は素晴らしいと気付くはずだ』と言った。
ルカーニアもやんわりと配下に入ることを断り、会合はお開きとなった。
ジョー・マッセリア登場
ルカーニアは申し出を断ったことによりマランツァーノに命を狙われると確信していた。
マランツァーノファミリーは正に“軍隊”のようでありルカーニア一派を壊滅させることも充分可能だ。
しかしマランツァーノは手を出してこなかった。
どうしてもルカーニアを取り込みたかったのである。
その理由はマランツァーノをもしのぐファミリーを率いるジョー・マッセリアの存在にあった。
インテリのマランツァーノと対称的にマッセリアは粗野で乱暴な人物。
マランツァーノは『王は二人もいらない』という理由から常にマッセリアと小競り合いをしていた。
そこでマランツァーノはルカーニア一派を取り込み、マッセリアを凌ぐ勢力を作ろうとしていたのだった。
そしてマッセリアも同じ事を考えていた。
まずダッチ・シュルツが平和の使者としてマッセリアからの伝言をルカーニアに届けた。
それからマッセリアの部下 ガエタノ・レイナがルカーニアを訪ね、改めてメッセージを伝えた。
『我々は同郷の仲間だ。いずれ手を組むこともあると思わんか?』
ルカーニアはyesともnoとも言わず、のらりくらりと返答を誤魔化した。
数ヵ月後、ルカーニアはシーゲルや仲間を連れクラブへと出掛けた。
ルカーニアが席につくとすぐにマッセリアが現れ、『席をくっつけて、俺のパーティーに加われよ』と誘ってきた。
ここでマッセリアと出会ったのは偶然とばかり思っていたが、後から思うとあればヴィトが仕組んだに違いない
それから両グループは楽しく酒を酌み交わした。
翌日、ルカーニアはマッセリアの招待を受け事務所を訪れた。
マッセリアの事務所の窓からはちょうどマランツァーノが運営するクラブが見えていた。
この日のマッセリアはうって変わった大迫力でルカーニアを指差しながら、早口でこう喚いた。
『俺と奴は戦争になる!
近い将来必ずだ!
なぜ奴がお前に手を出さないかというと、俺との戦いの間、中立でいさせるためさ。
そこでだ!お前は俺につけ!
力を合わせて奴を始末するんだ!
俺につけばお前はアメリカの中でNo.2になれるんだ』
ここでルカーニアはマッセリアとマランツァーノは、どちらも戦争が終われば自分を始末するだろうと悟った。
そこで私は綱渡りをしながら、一匹狼を続けることに決めた
ルカーニアはまたものらりくらりとと返答を引き延ばし、この場を切り抜けた。
ボードウォークの帝国
マッセリアの会合から数日後、ルカーニアのウィスキーがハイジャックにあう事件が起こった。
ハイジャックが起こった場所はアトランティックシティの近くの森の中だった。
さらに禁酒法取締局がルカーニアの酒倉庫を相次いで摘発し始めた。
一連のトラブルとマッセリアの関連は不明だが、品物を失ったルカーニアは窮地に立たされることに。
そこでルカーニアが頼ったのはアトランティックシティを支配していたイーノック・“ナッキー”・ジョンソンだった。
ナッキーとは例のボクシング観戦に招待したことで友好的な関係を築いてあった。
ルカーニアはアドニスを伴い、直ぐにアトランティックシティのナッキー邸へと車を飛ばした。
話し合いが始まるとナッキーは意外な提案を行った。
提案はアトランティックシティの陸揚げ権をルカーニアに譲る、加えてコステロが運営するスロットマシン事業をアトランティックシティで展開させようというもの。
さらにナッキーが港をしっかり見張るというおまけつきだった。
だがルカーニアは今すぐ酒が欲しいのだと言い張った。
ナッキーは俺に二日後に大量の酒が入ってくる事を教えてくれた。
私は諸々の条件の見返りとして、今後の組織の収益の10%を彼に渡すということで話がついた
ただし一つだけ問題があった。
入ってくる酒はサルヴァトーレ・マランツァーノのものだったのだ。
二日後の午前2時、ルカーニア、ランスキー、バグジーは森の中でマランツァーノの輸送隊を待ち伏せていた。
道路を塞ぐ木を避けようと、数人が降りてきたところでバグジーが発砲したので、続けてランスキーが発砲した。
マランツァーノ側の一人は死んで、残りは降伏した
覆面をしていたためルカーニア達が犯人だとはバレなかったが、盗んだ酒が市場に出回ればマランツァーノも犯人が誰か気付くだろう。
この時ルカーニアはもはやマッセリアと組むしか道はないと決心を固めた。
ルカーニアが酒を提供出来なくなれば、顧客は他のギャングを頼る、つまりこのハイジャックは致し方ないことだったのである。
ギャンブル帝国
1925年に入りルカーニアはさらなる発展を遂げていた。
当時は各々が組織を持っていた。
コステロ、ランスキーとバグジー、アドニス各々がリーダーだった
ルカーニアは特に自分の部下の身なりに気をつかっており、服装をきちんと、しかも派手すぎないようにするよう命じていた。
つばの広い帽子やけばけばしいシャツやネクタイはタブーで、ルカーニア達の服装はサラリーマンと見分けがつかないほどだった。
これはロススタインの“ビジネスマンらしく振る舞おう”という教えを実践してのものだった。
ちなみにこの頃にはルカーニアの下半身の不調は快復しており、毎晩違う女とベッドを共にしていた。
そんな絶頂の最中、ルカーニアはギャンブルビジネスの手を広げ始める、
私はヴィトに他の奴等が思いもつかない事を命じた。
我々は小さな駄菓子屋や雑貨屋なんかに賭けを引き受けて、我々に取り次いで欲しいと頼んだのだ
仕組みはこうである。
まず客は最寄りの好きな場所で賭けを申し込める。
賭けを受けた店はルカーニアにそれを渡し、ルカーニアは管理するノミ屋のどれかに賭けを引き受けさせる。
ノミ屋の儲けの一部はルカーニアと賄賂のために差し引かれるのだが、それでも週に50万ドル以上は儲かる仕事だった。
このビジネスとは別にルカーニアは高級場外馬券場をオープンした。
ここは競馬場には行く時間のない金持ちが集まり、優雅に馬券を購入する場所だった。
私は上流階級の女性達に腕輪や指輪を売って儲けた。
彼女たちを自宅に連れ帰ることもしばしばあった
ランスキーは『お前の唯一の弱点だな』とよくいさめていたが、ルカーニアの女好きは年々増すばかりであった。
ナンバーズ賭博誕生
今までギャンブルは金持ちたちの遊びだった。
しかしランスキーは奇想天外なアイデアをルカーニアひもってきた。
『毎日、ある数字に少額をかけられるというギャンブルはどうだろうか?
数字は000から999までで、株式の終値など誰も操作できない番号の下三桁とするんだ』
ルカーニアはこのアイデアをいたく気に入った。
さっそく二人は“ナンバーズ”と呼ばれることになる画期的なギャンブルを展開し始めた。
手始めにコステロのシマであるハーレムで開始したのだが、たちまち莫大な収益を産みはじめた。
あまりに収入が増えたため、またその金の使い道に困りはじめた
相談の末、この儲けの一部は組合や企業などへの投資に回させることとなった。
最高額の買い物
ルカーニアには一つの野望があった。
それは警察をまるごと買収することである。
これは警察のトップまでをも買収する事を意味していた。
1925年の秋、コステロとルカーニアは徐々に警視総監への接触を始め、ついに口説き落とすことに成功した。
金額は週に二万ドル。
かたぎの売り子の給料が週に25ドル、ルカーニアの部下が200ドルだったことを踏まえると、二万ドルは途方もない額であった。
この二万ドルは部下のジョーク・クーニーが直接、警察署に届けていたが咎める者は誰もいなかった。
今思えば、これが成功するかどうかの分かれ道だったな
こうしてルカーニア一派は警察も手を出せないほどの勢力へと上り詰めたのだった。
師匠トーリオ
1925年末、ナポリに行く途中だったジョニー・トーリオがニューヨークに立ち寄った。
そこでトーリオはルカーニア、ランスキー、コステロ、バグジーに一つのアドバイスを伝えた。
『禁酒法は近い将来終わるだろ』
この一言にルカーニアは動揺を隠せなかった。
みんな大きなショックを受けたが、ランスキーだけは違った。
ランスキーはトーリオの意見に賛成してから『生き残るにはには堅気に近づくしかない』と言った
もう一つ、トーリオは重要なアドバイスをルカーニアに授けた。
『生き残るには政治の世界に参入しなければなるまい。
警察が買収できるように政治家も買収できるんだ』
ルカーニア達は直ちに政治家買収へと乗り出した。
自分達に都合のいい政治家を選び、当選させる。実に単純な仕組みでルカーニアはニューヨークの政治を支配するに至った。
わたしの帳簿は3つの政党制度になっていた。民主党、共和党、私だ。
私は新聞を読み、“私の政治家”の活躍を見ては満足していた。
ニューヨーク・タイムスを読むほどの語力はなかったがね。
一方、トーリオはナポリへと旅立ったのだが、ムソッリーニのマフィア弾圧活動の煽りを受け直ぐにアメリカへと帰国。
それからはルカーニアやランスキーの正式なアドバイザーとして力を貸してくれることとなった。
くすぶる火種
ルカーニアが政治家を手に入れたことで、サルヴァトーレ・マランツァーノとジョー・マッセリアはより一層、ルカーニアを欲しがるようになっていた。
しかしルカーニアは既にハイジャック事件の時からマッセリアと組むことを決めていた、
1927年、ルカーニアはマッセリアに半ば強制的な呼び出しを受けた。
ルカーニアは直ちにランスキー、バグジー、コステロ、ヴィト、フランク・スカリーゼなどの仲間を召集し、今後の身の振り方を話し合った。
この会議は珍しく、激しい怒鳴りあいの応酬となった。
それほどまでにルカーニアが誰かの下につくという事は大きな意味を持っていたのだ。
結局はマッセリアにつくという事で話はまとまった。
私はどちらにしろ二人が争えばマッセリアが勝つと見ていた
ルカーニアはアドニスを伴って、マッセリアがまつホテルの部屋を尋ねた。
マッセリアは丸テーブルで食事をしているところだった。
マッセリアはまず二人に武器を持っているのかと尋ね、ルカーニアは「敵と会うとき以外、武器は持たないんです」と返した。
マッセリアはボディーガードに二人が丸腰かを確認させ、それからニヤリと笑った。
マッセリアはこの場でルカーニアが誘いを断れば殺すつもりだったのである。
ルカーニアが「あんたの味方になります。ただ一つ言いたいのは、俺はあんたを怖れているわけではありませんよ」と伝えるとマッセリアは上機嫌になり、無邪気に喜んだ。
それからルカーニアは以下の条件を付け加えた。
・組織のNo.2にすること
・酒のビジネスには手を出さないこと
・ルカーニアが誰を仲間にしていても文句を言わないこと
これを聞いたマッセリアは食べ物を床に吐き出し、部屋をめちゃくちゃに壊しはじめた。
マッセリアのボディーガードは震え上がったが、ルカーニアは動じなかった。
それから我に返りマッセリアはこう言った。
「いい度胸だ。条件を飲もう」
ルカーニアはマッセリアと抱き締めあい、ワインで乾杯してからその場を去った。
こうしてルカーニアはマッセリアファミリーのNo.2の座についたのだった。
しかしルカーニアはすぐにマッセリアが、条件を反古にしたがると読んだ。
それまでの時間を稼ぐべくルカーニアはマッセリアの元へ媚びを売り、なるべく多くの時間を稼ごうとするのだが。。
近代マフィアの発明
ルカーニアが欲しかったのは、マフィアを統率のとれた組織に作り替えるための時間だった。
1927年、ルカーニアはマッセリアの組織を統率のとれた組織へと変貌させていった。
これによりマッセリアファミリーは外交的な組織へと生まれ変わり、ルイス・バカルター、トミー・ルッケーゼ、クリーブランドのモー・ダリッツ、シカゴのアル・カポネ、バグズ・モラン、フィラデルフィアのワクシー・ゴードンなどと取引を行ううに。
さらにルカーニアはチーズとオリーブオイル事業に参入し荒稼ぎを始める。
マッセリアは自らの為によく働くルカーニアをみて満足していた。
一方ルカーニアはマッセリアファミリーのNo.2としての地位を利用し勢力を拡大していったが、いずれはマッセリアを消すつもりだった。
セブングループ
ジョニー・トーリオとルカーニアはマッセリアに秘密で全国的なマフィアの集まりを作ろうと考えていた。
この集まりは密造酒ビジネスを円滑をとり行うためのもので、二人は招待すべき7つのグループを選抜した。
・ランスキー&バグジー
・ジョー・アドニス
・ロンギー・ツィルマンとウィリー・モレッティ
・ピッツィ・ゴードン
・キング・ソロモン
・ナッキー・ジョンソン
・ルカーニア
そしてまとめ役がトーリオである。
この集まりは“セブングループ”と呼ばれ、暗黒街において最も力を持つ勢力へと発展してゆく。
セブングループとアーノルド・ロススタイン
アーノルド・ロススタインが射殺される少し前の出来事。
ロススタインはフランク・エリクソンという男を雇った。
ロススタインが手掛けていたのは超上流階級向けの賭博場で、それは中々のものだった
エリクソンはバーでサミュエル・ブルームという男と知り合う。
ブルームは最高級のスコッチ“キング・ランサム・スコッチ”を輸入するコネを持っていたにも関わらず、金に困っていた。
そこでエリクソンはブルームとルカーニアを引き合わせることに。
ルカーニアは絶好の機会を逃すまいとすぐに話をまとめた。
スコッチはナッキー・ジョンソンが陸揚げし、セブングループのメンバーの元へ輸送される。
この仕事は順調に進んでいたのだが、1928年の末になって、大量のスコッチが盗まれるという事件が起こった。
ハイジャックはよくあるが、これは妙だなと思った。
それでヴィト・ジェノベーゼに調べさせたんだ
調べたところブルーノはロススタインにギャンブルで負け借金を作ってしまったが、ハイジャックのあった翌日には完済していた。
証拠はないが裁判など必要なかった。
しばらくしてバグジーがブルーノをセメント詰めにして沈めた。
このハイジャック以外、全ては順調に進んでいた。
しかし私は密造酒ビジネスに不安を感じ始めていた。
対立
1929年、いよいよサルヴァトーレ・マランツァーノとジョー・マッセリアの争いは避けられないものとなっていた。
二人の対立は激しさを増し、ついにマッセリアが先手を打つ。
マッセリアはマランツァーノと同郷、カステランマレーゼ出身のデトロイトファミリーのボス、ガスパル・ミラッツォを暗殺。
さらにマッセリアは公に「マランツァーノに与する者とカステランマレーゼの奴等は皆殺しだ」と宣言。
これをきっかけにマフィア史上最大の抗争となる“ステランマレーゼ戦争”が始まったのだった。
シチリア人には妙なところがあって、必ず裏切り者が出るのだ。
さらにシチリア人は疑い深い。
マッセリアは一日に何度も電話をしてきて、その度に誰かを消せと言った
もう一つルカーニアには悩みがあった。
あまりに酒の需要が増えすぎたため、カナダやヨーロッパでは酒の市場価格がべらぼうに高くなってしまったのだ。
ルカーニアはトーリオ、ランスキー、コステロと話し合いを行い“今こそセブングループを集めて取り決めを行うべきだ”との結論に至る。
しかしマッセリアはルカーニアの事をいつも見張っており、こっそり会合を開くのは至難の技であった。
マッセリアは常に私を呼びつけては、何をしていたか、どこにいたか、なぜ夜更かしをしたのか、など何から何まで知りたがった。
まるでお母さんのようだった
お母さんを追い払う
1929年11月のある日、ルカーニアはマッセリアにドライブへと連れ出された。
マッセリアは銃をルカーニアに突き付けこう行った。
『これから叩きにいくぞ、給料日だ』
ルカーニアは拒否する隙も与えられないまま車から下ろされ、マッセリアの部下レッド・レヴィンとポール・ミネオと共に車で銀行へと向かわされた。
銀行から従業員の給料を卸した会社を経営する男が出てくると、レヴィンは男を叩きのめし金を奪った。
しかし銀行の警備員が発砲しレヴィンは倒れてしまう。
ルカーニアは必死にレヴィンを車へと運び逃走を図ったが、すぐに逮捕された。
この逮捕についてはコステロがあらゆるコネを駆使して揉み消してくれた。
かかった費用は8000ドル。
しかしそれに見合うモノをルカーニアは得た。
この失敗からマッセリアは少し大人しくなった。
監視が弱まった好機を逃さず、私はセブングループを集めて話し合いを行うことにした。
アトランティックシティ会議
ルカーニアは嬉しい知らせを聞いた。
親友のランスキーが結婚するというのだ。
そこでルカーニアはランスキーの結婚祝いを兼ねて、セブングループの会議を観光地のアトランティックシティで開くことに決める。
1929年5月、ランスキーは妻のアンナを伴って楽しい新婚旅行に出掛けた。
しかし新婚旅行先のアトランティックシティには全国から暗黒街の住人が集まっていた。
だがアンナは終生この新婚旅行の真の目的を知ることはなかった。
集まったのはセブングループのメンバーに加え、シカゴのアル・カポネとジェイク・グージック、ルイス・バカルター、フランク・エリクソン、アルバート・アナスタシア、フランク・スカリーゼの面々。
ホストはイーノック・“ナッキー”・ジョンソンが勤めた。
ナッキーは酒や女、食べ物などあらゆる娯楽でメンバーをもてなした。
またランスキーや彼女連れの者にはミンクのコートがプレゼントされた。
開催されたマフィア、ギャングのボスの集まりはマスコミが後に書き立てた物々しいものではなかったのだ。
最初の二日間、集まったマフィア達は思い思いにアトランティックシティを楽しんだ。
三日目、友好を深めたマフィア達は靴を脱ぎ砂浜へと繰り出した。
そこでブラブラと散歩をするうちにある程度のルールが定まった。
1.酒の価格の吊り上げはやめ、平等に仕入れ販売する。
2.禁酒法が終わった際にも協力関係を維持する
これに加えギャンブルビジネスについても協力していこうということで彼らは同意した。
ただ一人、不満を持ったのはアル・カポネである。
トーリオとルカーニアはあまりに派手に暴れまわりマフィアのイメージを悪化させているカポネに『服役してほとぼりをさませ』と提案したのだ。
この提案は多数決で可決され、カポネは買収した警察官にわざと逮捕されることで刑務所へと入った。
実はもう一人、気分を害している人物がいた。
アンナである。
敬虔なカトリック教徒であるアンナは下品な友人とは縁を切り、実家の会社を継ぐようにと強く迫った。
これにはランスキーもたじたじであった。
一方、ルカーニアは全ての結果に満足していた。
ルカーニアは荘々たるメンバーを集めただけではなく、取りまとめ一つの組織を作った。
この事実はルカーニアの影響力がマッセリアやマランツァーノをも上回ったことを表していたからである。
しかしルカーニアにはひとつ気がかりな事があった。
私はマイヤーの考えがいつもわかった。
彼は他人に考えを読まれないと思っていたが私にはわかった。
彼は自分がトップに立つ日を夢見ていた。
だがトップに立てるのは一人だけである
ルチアーノ
名声を高めつつあったルカーニアにはひとつ悩みがあった。
それはだれもが自分の名前をちゃんと呼んでくれないことである。
特にイタリア系以外の者はルカーニアの発音をまずできなかった。
前回の給料強奪で際に逮捕されたとき、ルカーニアは“ルチアーノ”という偽名を使ったのだが、こちらは誰もがしっかりと発音してくれた。
やがて警察はルカーニアを“ルチアーノ”と呼ぶようになり、ルカーニア自身もこれを気に入った。
という訳で1928年以降、チャーリー・ルカーニアは自らの名前を“チャーリー・ルチアーノ”と改めることに。
新たに誕生した“アメリカの紳士ルチアーノ”はその名声にふさわしい暮らしを送ることにきめた。
まず私はホテル暮らしをしようと思った。
第一候補はパークセントラルだったが、ロススタインが死んだので縁起が悪いなと思った
それに人の真似ではなくてオリジナリティを出したいなと思って、それで窓から自然の見える部屋は素敵ではないかと思い至った
こう考えたルチアーノはセントラルパークを見渡せるバルビゾン・プラザに居を構えた。
さらにルチアーノは売春婦あさりを辞めて彼女をつくることにした。
名前はゲイ・オルロヴァ。
彼女はブロードウェイのダンサーでルチアーノと“野心を持っている”という共通点があった。
彼女にくびったけだった。
しかし私は彼女の本名も生い立ちも知らなかった
監督ルチアーノ
1929年、マッセリアは副官としてファミリー全員の面倒をみろとルチアーノに申し付けた。
マッセリアの部下の多くは野蛮な犯罪者であり、数も多かった。
ルチアーノは500名あまりの部下のビジネスの相談にのり、誰かかがヘマをした場合はお灸を据えなければらななくなった。
あまりにいうことを聞かない奴は指をおられたり、頭をカチ割られたよ
しかしルチアーノはそんな多忙の合間を縫って密造酒ビジネスにも精を出していた。
ある夜、大きな取引のためにニューヨークを離れ、朝になって帰宅すると自宅の電話が鳴っていた。
電話口ではマッセリアがカンカンになって怒っていた。
『なぜいないんだ!お前は俺の副官なのに自分のビジネスばかり追いかけている』
よくよく話をきくと、マッセリアの部下が逮捕されたので、釈放させたかったのにルチアーノはどこにもいなかったとの事だった。
マッセリアの束縛にうんざりしていたルチアーノは逆にマッセリアをホテルの自室へと呼び出した。
反古
ルチアーノがフランク・コステロと共にコーヒーを飲んでいるとマッセリアが怒鳴り混んできた。
『何様のつもりだ?俺をよびつけるのか?ボスの座をねらっているのか?』
ルチアーノはなんとかマッセリアをなだめ、コステロがすぐに部下を釈放させますよ、と伝えた。
しかしマッセリアの怒りは収まらない。
マッセリアは『密造酒ビジネスを全て明け渡し、お前は私の為にだけ働け』と命じた。
ルカーニアは約束が違うと食い下がったがマッセリアは聞く耳を持たなかった。
あくまでもボスはマッセリアなのである。
決戦
マッセリアが部屋から去って間もなく、ルチアーノの部屋にはランスキー、バグジー、コステロ、トーリオ、ジェノベーゼが集まっていた。
話し合うまでもなく結論は出ていた。
密造酒ビジネスを渡すわけにはいかない。
しかしルチアーノにはまだマッセリアと戦うだけの力はなかった。
仮にセブングループが束になってもマッセリアには敵わない。
そこでランスキーが口を開いた。
『我々は動き回るあまり、回りが見えていなかったんだ。
近々、マランツァーノとマッセリアの戦いに決着がつくだろう。
我々は勝ち馬にのって、それから勝った方も排除する。
ルチアーノがボスになる以外にビジネスを続ける術はない』
皆がこれに同意した。
戦争の中でうまく立ち回るべく、ルチアーノは一度は誘いを断ったマランツァーノと話すことに決めた。
ラッキー・ルチアーノの誕生
“ルチアーノがマランツァーノと会うらしい”という噂は瞬く間に暗黒街に広まった。
ルチアーノはまずマランツァーノ側の人間で友人のトミー・ルッケーゼとサウナで落ち合った。
ルッケーゼは改めて確認した。
『本当にマランツァーノに会うのか?彼はマッセリアを消せと命令するかもしれん』
そんな事はお見通しだったルチアーノは意味深に笑ってから問題ないと請け負った。
実際の会談の段取りを行ったのは、ルチアーノとも親しいジョー・プロファチ。
プロファチのシマ スタテンアイランドで安全を保証するのでサシで話そうということになり、ルチアーノも同意した。
1929年10月17日、会談当日ー。
仲間達はルチアーノが一人で出向くのは危険だと言い張った。
しかしルチアーノは忠告をきかずに一人で車をスタテンアイランドへと走らせた。
待ち合わせ場所につくと既にマランツァーノが待っていた。
彼は微笑んでわたしに肩を回して、話そうといった
マランツァーノの話とはやはり、ルチアーノに味方になれという話だった。
『考えを改めたのかね』とマランツァーノ。
ルチアーノは「だからここまで来たんだ」と答えた。
マランツァーノはルチアーノをファミリーに受け入れるのには条件があると言った。
『マッセリアを殺して欲しい、君がその手で殺すんだ』
ルチアーノはこの意味に気がついた。
シチリアの伝統ではボスを殺したものはボスになれないと決まっている。
マランツァーノはルチアーノが自分に取って変わらぬように、手を打とうとしていたのだ。
ルチアーノは少し伏せぎみになり考え込み、もう一度顔をあげるとマランツァーノは真顔でルチアーノを見ていた。
「馬鹿なこというな」そう言ったとたんルチアーノは何者かに背後から殴られ気を失った。
目が覚めるとルチアーノは倉庫の天井から親指を結んだロープで吊るされていた。
回りには6人の覆面をした男とマランツァーノがいた。
弱虫どもがいっせいに私に襲いかかった。
何度も殴られ、タバコを押し付けられ私は再び気絶した
目を冷ますとマランツァーノは再び説得にかかった。
『なぜた、なぜマッセリアを殺さない。殺すと約束すればすぐに楽になるのに』
再び拷問が始まった。
ルチアーノの体のあちこちから血が吹き出し、したたっていた。
マランツァーノはもう一度聞いた。
『どうかね?マッセリアを殺すか死ぬかだぞ』
ルチアーノはマランツァーノの股間を蹴りあげることでこれに答えた。
マランツァーノは床に崩れ落ちた後、『こいつをぶっ殺せ』と怒鳴った。
再びルチアーノは殴られた。
それからマランツァーノはナイフをルチアーノの顔面に深く突き刺し、切り裂いた。
おまけに胸にもナイフが突き刺された。
そして覆面をした男の一人がルチアーノに銃口を向けた。
しかし冷静さを取り戻したマランツァーノがこれを制止した。
『こいつは行かしておくんだ』
ほっとしたのもつかの間、部下たちはナイフを取り出し、ルチアーノの体のあちこちを切り裂いた。
私は動くことも出来なかった。
もし生き残ったならば必ずマランツァーノを殺すと誓った。
奴等は私を車のトランクに入れてしばらく走ってから路上に投げ捨てた。
私はなんとか這って明かりのある方を目指したが気を失った
目が覚めるとルチアーノは病院にいた。
どうやら警察が通りかかりルチアーノを見つけたらしい。
幸か不幸かルチアーノはなぜか車両窃盗の罪で逮捕されており、全身には包帯が巻かれていた。
しかしルチアーノは生きていた。
ランスキーが見舞いにやってきて『お前はラッキーだったよ、ラッキールチアーノさ』と言った。
これがラッキー・ルチアーノとあだ名されはじめるキッカケだった