ロシアのリアル「スーサイドスクワット」
ロシアのウクライナ侵攻から1年と数カ月が経った。
そこで浮き彫りになったのは、ロシアの職業軍人も不足である。
また、一部の推定ではロシア軍の死者数は1万人を超えており、10年にわたるソ連のアフガニスタン戦争全体で死亡した死者数よりも多い。
そんなわけでロシアは人材を発掘する必要に迫られた。
2022年9月、軍事企業ワグナー・グループのボスであるエフゲニー・プリゴジンは、ロシア中央部マリエル共和国の刑務所を訪れていた。
プリゴジンは演習場に集まった受刑者らに対しこう述べた。
「ワグナー刑務所で6カ月間服役すれば自由になる。
ただし、ウクライナに到着して自分に向いていないと判断した場合は処刑する」
ワグネルの傭兵たちは裏切り者の頭蓋骨を大ハンマーで打ち砕くという恐ろしい評判があるので、囚人たちは震え上がった。
ワグナーグループへ
ワグナー・グループは、2014年に始まったウクライナ紛争の第一段階後に設立された。
ロシアの法律では傭兵は正式に違法であるため、長年にわたり机上ではワグナーは公式には存在していなかった。
しかし、彼らは中東やアフリカ各地の戦闘地域に秘密裏に配備されてきた。
これはワグネルのPRにもなるし、傭兵は公式の死者数に記載されていないため、損失をごまかせるという意味でも重宝されてきた。
今回プリゴジンは自らの専用ヘリコプターで刑務所を巡回。
捕虜が戦場で6か月生き残れば恩赦を与えると約束した。
その結果部隊には強盗、殺し屋、麻薬売人が参加したといわれている。
英国諜報機関は、恩赦を受けた囚人は5万人に上るとみている。
また、アメリカの諜報機関はその数を4万人に近いと推定している。
ギャングのボスも
イゴール・クスクはそれほど幸運ではなかった。
55歳の彼はアフガニスタン戦争とチェチェン戦争に参加したのち、恐喝組織を立ち上げたが逮捕されてしまった。
そんなクスクはプリゴジンの言葉を千載一遇のチャンスと捉え、舞台に志願する。
しかし彼は戦い中に破片が頭に刺さり、2022年9月に死亡した。
ギャングのリーダー、イワン・ネパラトフも志願していた。
彼の罪は強姦、住居侵入、殺人など多岐にわたる。
彼は腕っぷしに自身があり、戦争でも活躍できると踏んでいたが、戦闘中あっけなく射殺されてしまった。
プリゴジンの正体
実はプリゴジンも元犯罪者である。
1981年、ソ連の裁判所は、強盗と未成年者を酩酊させ犯した罪で懲役13年の判決を下している。
だが1990年代に入るとプリゴジンはサンクトペテルブルクのギャンブル事業で富を築くようになる。
当時プーチンはカジノを監督する委員会の委員長を務めていて、そこで交流が生まれたとみられている。
その後プリゴジンはレストラン事業を立ち上げるが、裏ではギャングを通じてカジノを支配し続けていた。
そんなプリゴジンがプーチンの暴力装置として立ちあげたのがワグナー・グループである。
とすると、ギャングや犯罪者をためらいなく雇用するのも納得がいく。
ちなみに、今年に入ってアメリカ政府はワグナーグループを「国境を越えた犯罪組織」に指定した。
彼らは世界最強の犯罪組織ともいえそうだ。