シチリアマフィアの女
シチリア・マフィアはその始まりから、男によって導かれ、男たちによって構成されていた。
だが、それもいまや昔の話である。
3月3日、イタリア警察はシチリア・マフィアのボスの中のボスと呼ばれたマッテオ・メッシーナ・デナーロの長姉、ロザリア・メッシーナ・デナロ(67)を逮捕した。
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警察は「彼女がシチリアマフィアの会計係である」と述べている。
またロザリアには、逃亡中の兄のメッセンジャーをしていた疑いもかけられている。
さらに、彼女の息子はマッテオ・メッシーナ・デナーロの弁護士だ。
そのことから専門家は、ロザリアが組織で一定の権力を持っていたのではないかとみている。
そんなロザリアの自宅はシチリア島西部の町カステルヴェトラーノにある。
リビングルームには、王冠をかぶった兄の肖像画が飾られていた。
兄が凶悪な犯罪に手を染めたにもかかわらず、彼女は偶像視していたのだ。
もう一人の協力者
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そんな女性は、彼女だけではなかった。
もう一人のアンナ・パトリツィア・メッシーナ・デナーロも同じだった。
彼女は帳簿の管理に加え、恐喝の支持もしていたという。
しかし2013年12月、警察が30人を摘発した大規模捜査に巻き込まれた。
この捜査でアンナの資産、オリーブオイルの会社などが押収され、銀行口座は凍結された。
逮捕されたアンナは法廷でこう話したという。
「私はコーザ・ノストラの一員ではありません。
ただ私が背負っている姓は、私の誇りです。それが違法というのなら仕方ないでしょう。
ですが兄のマッテオとは20年間連絡を取っていません」
警察はこれを否定し、彼女は監禁された後も兄と連絡を取り合い、兄の命令を伝えていたと主張した。
現在52歳の彼女は、刑務所で沈黙の掟を守り続けている。
逃亡中のマフィアボス
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マッテオ・メッシーナ・デナロが逃亡したのは、1993年のことだった。
当時の警察は、メッシーナ・デナーロの居場所は、彼の部下を揺さぶればすぐに突き止められると考えた。
裏社会では、犯罪者がどんな形であれ、親族に援助を求めることは比較的よくあることである。
だがこれまでは、逃亡したマフィアは他の男性に頼るのが普通であった。
女性は裏切るかもしれないという偏見があったからである。
しかしデナロは女性を信頼し身をゆだねた。
だからこそデナロは警察の裏をかけたのである。
しかし結局警察はアンナの存在にたどり着いた。
2022年12月、警察はロザリアの家に密かに侵入し、盗聴器を仕掛けるに至った。
そして、逃亡中の兄の居場所に関する手がかりを得るために、彼女の家を丹念に捜索。
そして、あるものを発見する。
ロザリアの書斎のの椅子を逆さまにしたところ、椅子の脚の裏に小さなメモを見つけたのだ。
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そのメモには「ピッツィーノ」と呼ばれる、暗号でメッセージが書かれていた。
警察ははメモを写真に撮り、元の場所に戻した。
警察署に戻った捜査員たちは、「ピッツィーノ」の解読を始めた。
暗号は言葉や記号、文字が入り乱れ、意味不明なものだったという。
しかし、警察は苦心の末、暗号の解読に成功。
メモがある男性の大腸がん闘病の記録であることがわかった。
ロザリアは「フラゴローネ」、つまり「大きなイチゴ」というコードネームで兄と交信していたようだ。
数字は日付を表していた。
また、病気や手術、病院を意味する文字もあった。
やがて警察は亡くなったマフィアのボス、レオナルド・ボナフェデの甥であるアンドレア・ボナフェデが頻繁にパレルモの私立のクリニックに通い、大腸がんの治療を受けていると突き止める。
しかしレオナルド・ボナフェデの住まいは、遠く離れたトラパニである。
これは妙だと警察は感じた。
2023年1月16日、「アンドレア・ボナフェデ」はクリニックに到着したところで、警官に声をかけられ、名前を聞かれた。
彼はこう答えた。
「私が誰かは知っているだろう 。
私はマッテオ・メッシーナ・デナーロだ」
デナロの逃亡生活
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早速、捜査当局はメッシーナ・デナーロの逃亡生活に踏み込んだ。
カンポベッロ・ディ・マザラにある彼のアパートを捜索したところ、まるで独身寮のような質素な隠れ家が見つかった。
クローゼットには高価なスニーカーやデザイナーズ服が並び、バイアグラやコンドームが用意され、冷蔵庫には食料が積まれていた。
また、壁には『ゴッドファーザー』役のマーロン・ブランドのポスターが飾られていた。
ほどなくして、同じ町内でさらに2つの隠れ家が見つかった。
一つは最初の隠れ家から数百メートル離れた場所にあり、宝石類は入っていたが、書類はなかった。
また、タンスのクローゼットの中に秘密のコンパートメントがあったという。
そして3つ目の隠れ家は空っぽで売りに出されていた。
3月中旬、当局はメッシーナ・デナーロの3つの隠れ家を捜索したのと同じように、ロザリアの自宅を徹底的に調べ上げた。
そこで警察は兄妹の間で交わされた無数の手書きの “ピッツィーニ “を発見する。
「ピッツィーニ」の中には、政府やビジネスの世界での腐敗した人脈を指すと考られる専門用語が含まれていた。
そのうちの一つ、「パルミジャーノ」とあだ名されるある人物は、実業家として成功していると思われる。
また、彼女の兄はメモにたくさんの指示を書き込んでいた。
警察の監視をいかに察知し回避するか、色のついた布を使い家の外に吊るして訪れたマフィアたちに安全かどうかの合図を送る方法などだ。
また、ある「ピッツィーノ」には、部下を鼓舞するメッセージも含まれていた。
「私たちは盗賊のように訴追されてきた。まるで人類の一員ではないかのように扱われた。浄化されるべき民族のように。
それでも、このシチリアという土地の子どもである私たちは、まずピエモンテに圧倒され、次に私たちが認めないローマ国家に圧倒される。もうこりごりだ。
私たちはシチリア人であり、そのままでいたいと思っている。
彼らは国民に大嘘をついている。
私たちは悪者で、彼らは善人なのだ」
デナロは現在、ラクイラ刑務所の化学療法室で、がん治療を受けている。